届いた!? 風しんクーポン券

巷で話題の「風しんクーポン券」、あなたには届いていますか?

今年の3~6月くらいに各自治体から対象者に向けて発送されているようですが身に覚えはありますか。と言っても全国民に届けられているものではありません。

例えば、ここにとある4人家族がいます。私21歳(大学3年)、弟16歳(高校2年)、母45歳(薬局勤務)、父49歳(証券会社勤務)の東京在住です。クーポン券が届いたのは父親だけでした。

どういうことなのでしょう。。。

男性だったら弟もいるし、働いているということなら母親も該当するし、年齢で区分するのであれば40代であればここにも母親は該当するし、東京在住なら皆だし。その振り分けに??と思った方もいるのではないでしょうか。紐解くには少し長くなるのですが、お付き合いください。

2019年4月から実施されているのは「風しんの追加対策 風しん抗体検査・風しん第5期定期接種」です。この対象者に「風しんクーポン券」が送付され、それは昭和37年度~昭和53年度生まれの男性です。年齢と性別が限定されている施策なのです。(ちなみに実際に2019年度中に届くのは昭和47~53年度の対象者です。それ以外は2020年度以降順次届きます。)

なぜなのか?

この世代が特に風しんの抗体保有率が低いのです。そのため、まずはこの世代に対して集中して施策を行おうという目論見です。ただ、この世代全員が抗体が低いというわけでもないため、抗体価を測定するためのクーポン(低い人を選別)、ワクチンを接種するためのクーポン(低い人がワクチンを接種して抗体価を上げる)が同封されているのです。クーポン=金券です!まさか届いたのに開封もせず捨てたなんてことはしてませんよね。

でも、女性にもあっても良いのでは?と思いませんか。同じ時代を生きてきたのに区別するなんてと思う方もいるかもしれません。

同じ世代の女性は、当時中学生だった時代に風しんワクチン接種が実施されているのです。そのため、抗体保有率を見ても高いため、この施策からは除外されているということになります。また、女性だけに接種されていたのにも理由があります。

風しん(風疹)はどんな感染症かご存知ですか?”はしか”じゃないの?という方もおられるかもしれません。”はしか”ではありません。”三日はしか”であればあっています。”はしか”は麻しん(麻疹)のことでまた別の感染症なのです。似たような呼び名がついていますので、似ているところもあります。まず、発疹が全身に拡がる病態は同じです。ただ、発疹の状態は異なり、麻しんの場合は隣同士の発疹がくっついて融合性発疹が特徴的です。一方、風しんは個別になっており非融合性発疹です。また、発疹がでる前には熱が両疾患ともにでますが、麻しんでは二峰性に見られ、一度38度くらいの発熱のあとに一旦下がってから今度は38度以上の熱が見られます。風しんでは38度いかないくらいの発熱が一度見られます。このように似たようで似ていない感染症です(他にも麻しんでは口の中に見られるコプリック斑が特徴的と言われていましたが、最近の研究では他のウイルス性疾患でもみられるということが報告され、臨床診症状だけでは鑑別困難であることも言われています)。もう少し踏み込むと、麻しんでは合併症が問題になります。肺炎や脳炎など死に至ることもあり、江戸時代には命定めとされて恐れられていました。風しんは症状自体は麻しんよりも軽く、”三日はしか”とも呼ばれますが、最も懸念しなくてはならないのは、妊娠している女性に感染すると先天性風疹症候群(CRS)という胎児に風しんウイルスが感染し、大事な器官形成の時期にウイルスが増殖し何らかの障害をもって生まれてきてしまいます。そのため、風しんウイルスに感染させないために、女性だけに接種して守らなければという思いで女子中学生に風しんワクチンを接種した時代がありました。この当時、英国がそのような施策で実施しており、日本はワクチンの本数も限定的で、それが適切であろうということで参考にしたのです。1977年に日本では風しんワクチンの定期接種化がなされ、女子中学生全員がその対象となったのです。これは1994年の予防接種法改正のときまで続きました。としても良いのですが、この間に動きがあり、1989年にMMRワクチン(麻しん・おたふくかぜ・風しん)が発売され、麻しんワクチン定期接種の時にMMRワクチンを選んでも良いということになったため、このときMMRを選んだ男性は風しんの抗体も獲得できているということになります。ただ、このMMRワクチンは問題が生じて1993年に販売中止になってしまいました(改めてこの内容はアップします)。まとめると男性も女性も同じく接種できるようになったのは1995年からということです。

1994年の予防接種法改正は大きなものでした。いくつか抜粋すると一つは「法による強制・義務接種から国民の努力義務」となったこと、もう一つは「集団接種から個別接種」になったことだと考えます。このような法改正があり、風しんの予防接種について男性、女性ともに定期接種にはなったものの、接種率を高く維持することが困難となり、接種していない人=抗体を保有していない人の存在を作ってしまったのです。この抗体ポケットの人たちが、今回の「風しんクーポン券」が届いたおじさまたちなのです!

あなたがいけないのではないのです。知らず知らずで時代に翻弄されてしまっているだけなのです。予防接種を取り巻く環境はその時代の負の面を背負わされているように見えます。風しんに関する予防接種施策もその影響を受けていないとは言えません。今回、クーポン券が届いたのはラッキーなのです。おじさまたち以外にも接種していない、接種できなかったという人は少なからず存在します。そのような人たちのためにもぜひ、クーポン券を使ってください。面倒だなんて言っている場合ではないのです。

9月にはラグビーワールドカップが始まり、2020年には五輪です。海外からの渡航者が増える=様々な国で流行している感染症が持ち込まれる可能性もあります。そこに、国内で流行している感染症が相まったら医療機関は大混乱です。VPDと呼ばれるワクチンで予防できる疾患はワクチンで予防して、それ以外の感染症対策に精を出さなければならないのです。

風しんは接種率が高く維持できれば流行をコントロールすることが可能な疾患です。麻しんも同じです。接種できる人が接種して、集団免疫をはたらかせることによって、妊娠している女性も守られる、難病を患っている人たちへの脅威も減らすことができるのです。

予防接種に異を唱える人をゼロにすることは不可能です。ワクチンは人体にとっては異物なものであり、それを受け入れることができないという人は少なからず存在します。そのような考えをもつ人たちとも共生していくには、接種できる人が接種して、集団で守ることなのではないでしょうか。

あなたが動かなければ世の中は変わらない。。。

(最後までお目通しいただきありがとうございます。稚拙な文章で申し訳ありませんでした。1995年以降の風しんワクチンの変遷について触れていません。すぐに知りたい方は国立感染症研究所厚労省のHPでご確認ください。)