Vaccine hesitancy

この言葉を聞いたことがあるでしょうか?

日本語に訳すとワクチン接種忌避、ワクチン接種躊躇などとなります。ワクチンの接種機会があっても、何らかの理由があって「ワクチンを接種しない」という選択をするということです。

WHO 世界保健機関は『世界は多くの健康上の課題に直面している』とし、”2019年 世界の健康に対する10の脅威”の中で8番目にこの「Vaccine hesitancy」を掲げています。「大気汚染と気候変動」や「抗菌薬耐性」、「エボラ出血熱の危険性の高い病原体」など日頃ニュースで耳にするものに加えてです。普段あまり耳にしない「Vaccine hesitancy」ですが、世界的には重要な課題であると認識されており、それは日本でも同様です。

ワクチンで予防可能な疾患(Vaccine Preventable Diseases:VPD ブイピーディーと読みます)の1つである麻疹が世界で前年に比較して30%増加し、麻疹排除国と認定された国でも流行が見られています。その流行の要因として「Vaccine hesitancy」によるものも含まれるとされています。ワクチンを接種しないことを選択する理由は複雑で、WHOの諮問グループでは自己満足、接種のアクセスの不便さ、自信の欠如がその理由であると特定しています。この理由が特定できたからと言って、それに対するひとつの対策が誰にでも通用するということではありません。それぞれの根本的な動機を理解し、それぞれに合わせて取組んでいかなければその人の選択肢は増えないし、変わらないのです。

 

興味深い調査がありました。

2019年6月に公開された英国のWelcome Global Monitor 2018の調査結果です。この調査は140か国以上、14万人以上に科学や健康上の課題についてどう思うか?を探るべく様々な質問を設定し、回答を収集し解析されています。第5章にワクチンについての質問があります。調査結果の詳細は見てもらうとし、皆さんに共有したい部分のみ抜粋します。

ワクチンは安全か、効果的か、子どもたちにとって重要かについては全体ではおおむね同意する人は多かったのですが、国別に見ていくとむむむ、、、と思われるところがでてきます。例えば、子どもがいる家庭(親)に聞いた質問で「子どもたちが小児期の病気にかかるのを防ぐためにワクチン接種をした」について、92%は接種した、6%は接種していない、2%は不明と答えました。これだけ聞けばまぁ高いのでは?との意識ですが、6%の接種していないと答えた親の割合が最も高かった地域は南アフリカの9%、次いで東アジア、東南アジアの8%なのです。国別にみると中国9%、オーストリア8%、日本が7%でした。国別で上位に日本がくるのかと思ったのです。

グループによる解析で高所得国である日本とオーストリアは注目されており、なぜかというところにも言及しています。そこに書かれていたことは、日本ではHPVやその他ワクチンの安全性の問題、ワクチンへの信頼性の低下、ここ20年の政府の政策が最近の麻疹・風疹流行の発生理由のひとつであるとのことです。個々人の理由は様々であるにせよ、対策を取らずにこの子どもたちの感染症リスクを回避させるためには、接種したと回答した88%を95%まで上げていかないとVPDの流行を防ぐことはできません。

これまでも書いてきたように、予防接種は個人を守るだけではありません。集団免疫が働けば予防接種ができない人たちも守ることができます。その働きを期待するには集団の95%以上の接種率が必要です(疾患によってこの数値は変わりますが、すべての疾患で目標にすべき数値です)。「接種しない」というのは個人でリスクを取ることを選択しているのではなく、他の人にもリスクをもたらすことも含めて考えることが必要なのではないかと考えます。感染症は自分だけで収まるものではない疾患もあり、人によっては致命的になりかねないということを一人でも多くの人に知って欲しいです。

インフルエンザワクチンの接種シーズンが本格的になっています。今年はインフルエンザの予防だけでなく、麻疹と風疹を一つのワクチンで予防できるMR(エムアール)ワクチンも検討してみては。