集団接種について(つづき②)

実際に企業で集団接種を行う場合、何がネックになるのか。メリットばかりであればどの企業でも行われていてもよいのに、周りを見渡してもそんなにありません。

企業で行うには予防接種にかかるコストを誰が負担するか、がネックになるのではないでしょうか。企業側で全額負担というのであれば話は早いですが、会社一部負担や個人全額負担となると集団接種を行いますとなった場合に希望者が集まらないかもしれないということにもなりかねません。となると、何もしないよりは費用補助だけして使用された分を処理しよう、という企業側の判断となるのでしょうか。

話しは大きくなりますが、経済損失、労働生産性の低下への影響に考えを及ばしてみましょう。労働人口が減少している中で労働者一人当たりの労働生産性に目が向けられ、「健康経営」という概念が生まれました。健康経営を考える中で社員の健康問題は重要で、健康問題に関するコストには、直接かかる医療費、病欠(アブセンティーズム)と疾病就業(プレゼンティーズム)=何らかの健康問題により業務の効率や生産性が低下しながらも業務している状況、があるそうです。あまり聞きなれない言葉ですが日本においても働き方改革とともに注目されてきている言葉です。

米国の研究では病気による経済損失の内訳はアブセンティーズム(29%)よりプレゼンティーズム(71%)のほうが比率が高いことが示され、問題視されています<Mattke S,et al. Am J Manag Care;13:211-7,2007>。日本人は「24時間働けますか?」といったCMもあったように多少の無理をしてでも働くことの美徳がありました(過去形だとムッとされる方もいるかもしれないです、すみません)が、今思えば生産性の低い状況で働いていたということにもなりますよね…

話しを戻しますが、このプレゼンティーズムになり得る状況として、風しんや百日咳も例外ではないのではないでしょうか。大人では臨床症状としては軽い場合が多く、業務ができないほどではない疾患なのです。しかしながら、業務の効率は低下することは否めません。発熱や咳症状がある。例えば、花粉症の人は季節になると辛くなるのを思い浮かべてください。その状況と似たような感じです。頭はボーっとして鼻をかんだり咳をしたりで目の前の業務に集中できなくなることはないですか?

また、「痛み」も含まれます。慢性疼痛による損失は1週間平均で4.6時間に及ぶという試算もあり、時間ベースの経済損失は1兆9,530億円にのぼるという報告<Inoue S, et al. PloS One;10:e0129262,2015>もあります。痛みにも様々ありますが、帯状疱疹後疼痛というのもこれに含まれるのであれば帯状疱疹予防のワクチンの重要性も考えなければいけないところです。