過去の事例から学ばねば!

麻疹排除認定は基礎となる基準が3つあります。

①最後に流行性症例が認められてから36か月以上、流行性麻疹ウイルス感染が阻止されていることに関する記録があること、②適切なサーベイランス体制の存在下であること、③流行性感染の阻止を裏付ける遺伝子型判定に関する証拠のあること。

これらがすべて満たされ、WHOが確認し「認定」となるのです。わかりにくい表現があるため少し解説をいれると、麻疹ウイルスはその国によくみられる特有のタイプが存在します。日本ではD5というタイプが土着株として2010年5月まで確認されていました(これが日本の流行性麻疹ウイルス)。このタイプを知るには遺伝子型判定が必要になります。現在は海外からの輸入麻疹の症例が多く、遺伝子型を検査することで、どの国由来の麻疹ウイルスなのかを把握できます。そして、適切なサーベイランス下というのは、麻疹は全数報告であり、医師は診断したらすべて厚労省に報告するようになっています。これは義務です。そのような集計があることで、いつ・どこで・誰が感染し、どのくらい拡大しているのかを即把握し対策をとることにつながります。現在、多くの症例はB3のタイプです。これが36か月以上、日本各地で流行が見られるようになると①の基準を満たすことができなくなる可能性もあるのです。

麻疹排除認定を受けた2015年3月以降を振返ると多くの事例があがってきます。記憶に新しいのは沖縄県の台湾人旅行者が発端となった麻疹流行ではないでしょうか。ちょうどG.W.の時期に入ろうとしていた時期でもあり、個人旅行や修学旅行などのキャンセルが相次ぎ、その人数は5,500人を超え、直接損害額は約4億円と報告されています。そのほかにも県内イベントも中止もありました。沖縄県では国内からの旅行者も多いですが、台湾や韓国、中国といったアジア各国からの旅行者も多い観光地です。そのため、麻疹症例が確認されてからアジアへの情報発信、流行が終息してからの風評被害対策といった対応にも迫られました。

稀になった感染症が流行するとその被害は直接的なものに加え、流行が終息しても尾を引いてしまいます。風評被害の対応には時間がかかります。そして、罹患した人には合併症や後遺症もあるかもしれません。

世界を見ても流行地を旅した人が自分の国に戻って感染源となっているケースが多いのです。このような輸入例をつくらない、持ち込まれても拡大させない、それには個人の予防接種、そして予防接種を受けた個が集団となって地域を集団免疫の力で感染拡大を防ぐことが誰しもができる対策につながります。過去は変えられませんが、今からは動けば変えられます。歴史から学ぶことは多いですね。

<参考:沖縄県における外国人観光客を発端とした麻疹集団発生と終息に向けた行政対応(2018)報告書 第6・7章>